健康施策としての自転車活用事例|E-BIKE・散走による自治体の取り組み

私たちHaNeRiは、SEEKCROWDigSiteなどのサービスを通して日々の自転車走行データを活用し、みなさまの健康的で楽しいサイクルライフをサポートしています。日頃から多くのサイクリストや市民の方々の活動を拝見しているからこそ、今、自治体が直面している住民の健康づくりの課題に対して、自転車が大きな解決策になると確信しています。

「市民の運動習慣を定着させたいけれど、健康関連の催しにいつも同じ人しか集まらない」
「新しい健康施策を立ち上げたいけれど、専門知識も予算もない」

これまでは元気な状態がいきなり要介護になると思われがちでしたが、実際にはその間に心や体が少しずつ弱ってくるグレーゾーンがあることが分かってきました。
この状態をフレイルと呼びます。住民の健康寿命延伸やフレイル予防に向けて、日々頭を悩ませている健康推進担当者の方も多いのではないでしょうか。
既存のウォーキングイベントや健康教室だけでは、どうしても元から健康意識の高い人ばかりが集まりがちです。

目次

なぜ、フレイル予防に自転車なの?

自治体や医療の現場でいまフレイル予防が叫ばれているのは、この段階で早く気づいて対策すれば、また元の元気な状態に戻れるからです。フレイル予防の3大柱は運動、栄養、社会参加と言われています。そこで今、おすすめさせて頂きたいのが、電動アシストつきのE-BIKEや、頑張らずに寄り道を楽しむ散走(さんそう)を使ったアプローチです。本記事では、自治体のリソースに合わせた3つの活用パターンと、担当者の負担を減らしながら成功させるための設計ポイント、国の計画や交付金を活用した企画の通し方を解説します。

E-BIKEを使った散走のメリット

無理のない有酸素運動
E-BIKEなら、体力に自信のないシニア層でも膝や心臓に過度な負担をかけず、楽しく下肢筋力を維持・向上できます。

社会参加のハードルを下げる
「運動しましょう」と言われても腰が重い未関心層にとって、自転車で美味しいものを食べに行く、地域の歴史スポットを巡る散走は、気軽に外出や人との交流を始めるきっかけづくりになります。

自治体のリソースに合わせた3つの活用パターン

自治体が自転車施策を導入する場合、地域の特性や目的に応じて主に次の3つのパターンに分類されます。

① イベント型 まずは体験してもらおう(スモールスタート向き)

まずは地域の公園や名所を巡る半日散走イベントなどを、市民向けの健康フェア·測定会との同時開催をします。自転車に乗る楽しさを知ってもらい、施策の認知度を広げることで未完関心層の巻き込みを図ります。予算や人員が限られている自治体でも気軽にスタートできることがメリットです。

向いている自治体 都市部、ベッドタウン、初年度のモデル事業として実施したい自治体
具体的な内容 普段スポーツ自転車に乗らない層を対象にしたE-BIKE体験会
       地域の公園や名所を巡る半日散走イベント
       市民向けの健康フェア・測定会との同時開催による未関心層の巻き込み

千葉県浦安市

千葉県浦安市は、東京のベッドタウンで坂道がほとんどない地形です。浦安市では、一般社団法人等と連携し、市民を対象にしたうらやす散走を定期的に開催しています。
市内の歴史スポットや地元の素敵なカフェ、公園などに立ち寄りながら、半日程度でゆるやかに巡るスタイルです。日頃の運動不足は気になるけれど激しいスポーツは苦手、普段はママチャリにしか乗らないというベッドタウン住民のニーズに寄り添っており、参加への心理的ハードルを下げて自転車に親しんでもらうスモールスタートの好例として非常に参考になります。

浦安市観光協会
(※浦安市内の地域資源を活用した散走マップの配布やイベントレポートが掲載されています)

千葉県流山市

子育て世代のベッドタウンとして急成長している流山市では、市内の歴史的街並みやオシャレなカフェ・ベーカリー、緑豊かな公園を電動アシスト自転車等で巡るみりん散歩や散走イベントが、観光・健康づくりの両面で盛んに行われています。また、流山市では、市民や来訪者が気軽に自転車を利用できるよう、市内各所にシェアサイクルのステーションを整備しており、日常生活の中での運動不足解消や公共交通の補完、エコな移動手段として活用を推進しています。

流山本町江戸回廊と自転車を活用した散策(みりん散歩)
流山市の特産品である白みりんの歴史が残る流山本町エリアを中心に、歴史的建造物やオシャレな古民家カフェ、ベーカリー等を自転車で巡るルートや、レンタサイクル・シェアサイクルの情報が公式に発信されています。

② 継続型 運動習慣づくりを目的にする(健康増進のコア施策)

参加者の日常的な運動習慣の定着や、地域コミュニティの形成をゴールとした中長期的なプログラムです。血圧の安定や下肢筋力の向上など、具体的な数値として成果が出やすく、健康寿命延伸に直結します。

向いている自治体
地方の中小規模自治体、高齢化率が高くフレイル予防に注力したい地域

具体的な内容
週1回〜月2回ペースで定期開催するサイクリング教室
自身の体調や体力の変化を実感しやすい、同一コースの複数回プログラム
休憩時間に会話を弾ませ、仲間に会えるから次も行く状態をつくる顔なじみ設計

大阪府堺市

自転車メーカー・シマノの創業地であり、自転車のまちとして知られる大阪府堺市では、市民向けの大型イベントさかい健康フェスティバルでの啓発活動や、国際レースであるツアー・オブ・ジャパン 堺ステージなどの大規模な一般向けイベントと連動して、大仙公園などで自転車試乗体験会を同時開催し、普段スポーツ自転車に馴染みのない層へのきっかけづくりを行っています。
シマノ自転車博物館等と連携し、メタボ予備軍などを対象にしたプログラムが実施されています。のんびり街を巡るサイクリングを取り入れた結果、体重マイナス8kg超、腹囲マイナス11cmといった数値改善や、医療費削減につながった参加者の成果も報告されており、健康推進のアプローチとして注目を集めています。

また、堺市の公式ホームページにはSAKAI散走という特設ページがあります。徒歩より遠くへ行けて、車より小回りが利く。無理なく筋肉を鍛えられて、ロコモやメタボの対策にぴったりと、自治体自らが健康効果をPRし、市民に散走を勧めています。

③ 連携型 観光・地域施策と組み合わせる(ハイブリッド型)

健康づくりを入り口にしつつ、地域の経済活性化やサイクルツーリズムという観光施策の成果を同時に狙う取り組みです。健康のために走るとなると腰が重い人でも、美味しいものを食べに行ったり、温泉に入ったりという付加価値があることで、参加のハードルが劇的に下がります。

向いている自治体 
観光地、中山間地域、魅力的な地域資源(食・自然・歴史)が点在している自治体

具体的な内容
自転車の機動力を活かして地域のビューポイントを巡る散走温泉施設や道の駅、農産物直売所を休憩・立ち寄りスポットに設定
観光課や商工課、民間事業者とタッグを組んだ部局間連携事業

神奈川県藤沢市

人口規模の大きい都市部でありながら、民間事業者とタッグを組んで実証実験からスモールスタートしたのが、神奈川県藤沢市・湘南エリアの事例です。江ノ島電鉄とシェアサイクル事業者が共同し、E-BIKEを活用したシェアサイクルサービスの実証実験を日本で初めて実施しました。江の島周辺などアップダウンのある観光エリアでも、E-BIKEであればシニア層や運動に馴染みのない層が無理なく移動・周遊できることを実証し、現在は本格展開へと進んでいます。藤沢市自身もふじさわサイクルプランの中で、民間シェアサイクルと協働した周遊観光・社会実験を位置づけています。自転車による健康増進と地域の移動利便性向上を同時に狙う、官民連携モデルの先進例として参考になります。

江ノ島電鉄とHELLO CYCLINGを運営するOpenStreet株式会社が共同し、藤沢駅や江の島アイランドスパ等に専用ポートを設置して、E-BIKE「 KUROAD」を用いた実証実験を行いました。実証実験を経て、現在は本格展開されています。

また、藤沢市が策定するふじさわサイクルプランのなかで、民間事業者と協働し、市内各所に多くのポートを設置して移動実態やアンケート調査を行う社会実験・実証実験が継続して行われています。この計画の柱として自転車による健康増進や観光振興が掲げられています。

失敗しないための設計共通ポイント

先進自治体の事例から見えてきた、事業を成功に導くための共通ルールです。

1. 体力差を前提にする(E-BIKEの活用)

参加者の体力は一様ではありません。普段運動していないシニア層でも、体力に自信のある人と一緒に無理なく走れる環境が必要です。
ここで威力を発揮するのがE-BIKEです。上り坂でも息が上がらず、体力差による遅れや孤立を防げるため、コース選定の幅がグッと広がります。

2. 頑張らせない運動設計(散走のすすめ)

健康施策だからといって、息が切れるほどの高強度を目指す必要はありません。スピードを競わず、景色を楽しめる時速10〜15km程度でのんびり走る散走がベストです。こまめにカフェや商店への立ち寄りを挟むことで、心地よい有酸素運動なので、参加者が脱落しづらく「楽しかった」という記憶がしっかり残ります。

3. 人が集まりやすい動線と余白を意識する

駅前や広い駐車場のある公共施設など、アクセスが良い場所を集合場所に選びます。また、ゴールしてすぐ解散にするのではなく、お茶を飲みながら感想を言い合える時間的な余白をあらかじめ確保しておくことで、自然と参加者同士のコミュニティが生まれます。

担当者が企画を通すための2つの強力な後ろ盾

自治体で新しい施策、特に他部署との連携が必要なものを立ち上げる際、庁内の合意形成や予算確保が最大の壁になります。そこで、企画書に必ず盛り込みたい国の方針と予算の財源の文脈を整理しました。

背景:国の第3次自転車活用推進計画との合致

国は現在、持続可能な社会づくりに向けて自転車の活用を総合的に推進しています。企画書には、本施策が単なるイベントではなく、国の『第3次自転車活用推進計画』が掲げる健康増進、観光振興、環境負荷低減の3つの柱に合致する先進的な取り組みであると明記しましょう。

予算:国庫補助金「自転車活用推進交付金」の検討

予算がないという問題に対しては、国の自転車活用推進交付金などの支援制度(※自治体が自転車活用推進計画を策定していることなどが条件)の活用を視野に入れましょう。また、前述の連携型にすることで、観光課のサイクルツーリズム推進費などの予算や商工課の地域活性化予算を一部シェアしてもらったり、部局共同事業として予算を要求する道が開けます。

まずは小さな入口から始めよう

新しい施策を立ち上げるとなると、つい他部署を巻き込んだ大規模な計画や、自転車専用道路の整備など完璧なインフラ整備を考えてしまいがちです。しかし、予算も人手も足りない中で最初からそれを目指すと、調整だけで力尽きてしまいます。まずは、小規模なE-BIKE体験会を1回開くだけでも十分な一歩です。

「これなら私でも乗れる」「自分の街にこんな良いところがあったんだ」という市民のリアルな笑顔や声を集めること。その実績こそが、次年度の予算獲得や、本格的な継続施策へ進むための最大の推進力になります。まずは、目の前の市民が気軽にペダルを踏み出せるはじめのいっぽを、つくってみることから始めてみませんか?

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