海外のサイクルツーリズム(アジア編):台湾・韓国・中国の動向やコース例を紹介

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日本では、2018年6月の自転車活用推進計画や2021年5月の第2次自転車活用推進計画が閣議決定されたことなどに伴い、サイクルツーリズム推進がはじまっています。

日本国内のサイクルツーリズムについてはコラム「サイクルツーリズムとは?楽しみ方やメリット、自治体の取り組みなどを紹介」にて掲載しています。

本コラムでは海外に目を向け、アジア編として台湾・韓国・中国のサイクルツーリズムの動向を紹介します。

目次

台湾のサイクルツーリズム

台湾高雄

グローバル展開する大手自転車メーカーのGIANTメリダの本社がある台湾。

毎年11月には「FORMOSA 900」という環島(=台湾1周)サイクリングイベントが開催され、日本からのパッケージツアーも用意されています。(2020~2022年はコロナ禍のため実施なし)

映画がきっかけで誕生したサイクリングイベント「FORMOSA 900」

FORMOSA 900は2012年11月に初開催されましたが、このイベントはGIANT創業者の劉金標氏による環島がきっかけでした。

2007年に聴覚障害を持つ主人公が自転車で台湾を1周するストーリーの映画「練習曲」が公開され、主人公に触発された劉氏が当時73歳という年齢で約900kmもの環島を果たしました。

劉氏がこの体験の感動をより多くの人々と共有するため、実際の走行ルートや帯同車両などのスキームを再現できるサイクリングツアー会社の設立に向けて動き、サイクリングガイド、サポートカー、スポーツサイクルレンタルなどを展開する「GIANT ADVENTURE」が発足しました。

そして台湾サイクリングツアーの基盤ができてきたことでFORMOSA 900の開催に繋がり、その関心の高さを受けて台湾政府も国を挙げてサイクルツーリズムの推進に乗り出します。

2015年12月には環島一号線という全長939.5キロメートルの自転車道路が整備され、約20キロ毎に全122ヶ所の補給所が設けられ、空気入れや簡易救急箱、給水所、Wi-Fiなどが利用可能になりました。また、観光名所や駅への移動しやすい設計になっていることも特長です。

高齢の経営者が映画に感銘を受けて行動を起こし、それがきっかけで国が動き、大きなサイクルツーリズム文化が広がった台湾。劉氏のようなチャレンジ精神や行動力、国と一緒に精力を傾けた取り組みは、日本がサイクルツーリズムを推進するうえでも参考になります。

参考:株式会社ジャイアント「「2023 FORMOSA 900 GIANTオフィシャルツアー」を4年ぶりに開催」
参考:株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ(旧 株式会社アサツーディ・ケイ)「平成28年度スポーツ⽂化ツーリズム国際シンポジウム 海外事例調査 ご報告書」

韓国のサイクルツーリズム

飛行機だけでなく、フェリー利用でも日本から訪問しやすい韓国。自身が所有する自転車を持ち込む観光がしやすい旅行先でもあります。

人気のサイクリングルートと今後のサイクルツーリズム市場予測について触れていきます。

洛東江サイクリングロード

釜山を起点とする洛東江サイクリングロードは平坦な道で景色も楽しめ、日本の旅行者向けのサイクリングツアーも実施されています。

韓国での自転車インフラ政策が進んだのは2009年の李明博(イ・ミョンバク)政権時で、低炭素・グリーン成長戦略が打ち出され、国土縦走自転車道路の整備が計画されました。そして2012年、仁川からソウルを経て釜山に至る約700キロメートルの自転車専用道が開通しました。

もともとは四大河川に沿って自転車専用道路を整備して全通させる構想でしたが、その後朴槿恵(パク・クネ)の大統領就任後に自転車通行量の少なさが明らかになり、事業は大幅に縮小して早期に終了しました。

サイクリングロード整備に関してはそのような背景がありますが、韓国では自転車が持ち込める電車も多く、ソウル市では自転車にやさしい都市を目指して、公共交通機関への自転車持ち込みがしやすくなる施策や試験を行っています。

韓国のサイクルツーリズム市場予想

また、ソウルのシェアサイクル「タルンイ」では外国人観光客でも簡単に利用しやすいよう、会員登録なしでも借りられる仕組みを用意したり、アプリで外国人向けの導線を用意するなどの工夫がされています。

E-BIKEに乗りたい方は民間のシェアサイクル「KakaoTバイク」が対応しているエリアもあるので、調べてみてください。2022年にはアルトンスポーツ社がカカオモビリティ社にE-BIKEを供給する契約を結んでおり、E-BIKE利用がしやすい環境になると見込まれます。

そしてMordor Intelligenceのレポートでは韓国の電動自転車市場における2023~2029年のCAGR(年平均成長率)は11.29%と予想されているなど、E-BIKEを使った新しいサイクルツーリズムの広がりも期待できそうです。

参考:釜山カボイソキャンペーン事務局「第1回 日韓SDGsライド in korea 報告!!」
参考:SHKライングループ「あなたの愛用自転車で韓国を走ろう!関釜フェリーで行く 第13回韓国サイクリングツアー販売開始ついて」
参考:ソウル市「ソウル地下鉄、平日も自転車持ち込み乗車が9月1日から可能に」
参考:Mordor Intelligence「South Korea E-bike Market SIZE & SHARE ANALYSIS – GROWTH TRENDS & FORECASTS UP TO 2029」

中国のサイクルツーリズム

紫禁城

2023年12月現在、ADOやDYUなどのE-BIKEメーカーが販売台数を伸ばしている中国。

中国のなかでもサイクリングルートが多い北京エリアと中国E-BIKEメーカーの海外市場展開について紹介します。

北京が提唱する文化観光サイクリング

北京市では2019年に全長6.5キロメートルの自転車専用車線が開通しました。信号機がないため、スムーズな走行が可能です。

2021年に北京市は文化観光サイクリングルート21ルートを発表しました。北京市人民政府のWebサイト「北京の文化観光サイクリングルート21選」では中軸線や京劇の旅などをテーマにした区を跨いだ文化観光サイクリングルート4選と、各区の特徴を反映した各区の文化観光サイクリングルート17選を紹介しています。

このコンテンツでは日本語でもルートやマップ、対象者や想定走行時間などが分かりやすく記載されており、事前に内容を見ながらサイクリング計画を立てることもできます。

また、2023年の京杭對話暨運河文化節のイベントでは「中国大運河生活図鑑」が発表され、北京市内の5つのサイクリングルートが選出されるなど、市を挙げてサイクリングを広めようとする姿勢が伺えます。

E-BIKEメーカーの海外市場拡大

中国ではE-BIKEメーカーが欧州・北米市場で販売台数を伸ばしています。モーター、バッテリー、コントローラー分野の技術を電動アシスト自転車に活用し、高性能とコスト面のメリットを提供することで、海外市場での優位性を確立しはじめています。

一般財団法人 自転車産業振興協会のレポートによると、2020年のEUへの自転車輸入のうち17%は中国からで、E-BIKEも10%という二桁に届く実績です。

2023年12月現在は、中国国内よりも欧州・北米市場向けの販売に重きを置くメーカーが目立ちます。しかし、中国でも政府が2030年のカーボンピークアウトで交通輸送のグリーン低炭素化を掲げ、地球にやさしい交通システムを目指す指針を打ち出しています。このカーボンピークアウトやカーボンニュートラルへの具体的施策が検討されていくなかで、中国国内での日常生活や観光の移動手段としてのE-BIKE活用も増えると予想できます。

参考:一般財団法人自転車産業振興協会「欧州 2021年の自転車生産輸出入台数等」
参考:株式会社36Kr Japan「欧米で覇権を争う中国のe-Bike企業、テンセントも注目」

まとめ

本記事では、台湾・韓国・中国におけるサイクルツーリズムのポイントを紹介しました。

エリアによっても自転車観光の楽しみ方や利便性などは異なりますが、国際的に地球や社会にやさしい交通システムを目指す動きがあることから、今後も自転車活用が広がりそうです。

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