いま全国で広がりつつある「サイクルトレイン」。自転車をそのまま列車に持ち込めるこのサービスは、観光・経済・環境の三方に好影響をもたらしています。
本記事では、サイクルトレインの概要や普及状況、導入事例を詳しく解説します。サイクルトレインの可能性を知り、地域づくりを考える参考にしてみてください。
サイクルトレインとは

サイクルクルトレインとは、自転車を解体したり折りたたんだりすることなくそのまま列車内に持ち込めるサービスです。
従来、日本の鉄道では自転車を持ち込む場合は輪行袋に入れる必要がありましたが、サイクルトレインではその手間が不要になります。群馬県の上毛電気鉄道が2003年に開始したのを皮切りに、地方ローカル線を中心に少しずつ広がり、近年では都市部の路線でも導入例が増えてきています。
サイクルトレインの普及状況
現在、全国で約74社・152路線におよぶ鉄道路線でサイクルトレインが導入されています。大手私鉄各社も新サービスとして注力し始めており、新型コロナ禍で減少した鉄道利用の需要を回復し、観光地の活性化につなげようという動きも見られます。
国もこの流れを後押ししており、「列車内の自転車の持ち込みが“普通の景色”になること」を目指して普及策を推進。近年はアウトドアレジャーとしてサイクリングが注目されていることや、2018年施行の自転車活用推進法に基づく施策も背景にあり、サイクルトレインは今まさに全国的な広がりを見せています。
サイクルトレインを導入するメリット

サイクルトレインを導入するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 観光客数が増加する
- 経済効果が高まる
- 環境負荷を軽減できる
それぞれ詳しく解説します。
観光客数が増加する
これまで駅から先のアクセスが不便だった観光地やサイクリングコースにも、自転車を持ったまま気軽に訪れられるようになるため、観光客やサイクリストの来訪者数増加が期待できます。
実際、西日本鉄道(福岡県)の天神大牟田線では2022年3月にサイクルトレインを本格導入したところ、週末限定にもかかわらず延べ3,800名以上が利用し好評を博しました。
こうした利用者数の伸びは、サイクルトレインが鉄道沿線への新たな観光需要を喚起していることを示しているといえるでしょう。
参照:PR TIMES|西鉄天神大牟田線 「サイクルトレイン」サービス拡大!
経済効果が高まる
観光客やサイクリストの増加は、経済効果を高める働きもあります。サイクルトレインで訪れた旅行者は、現地で飲食店を訪れたり、宿泊施設を利用したりするなどさまざまな消費活動を行うからです。
国土交通省もサイクルトレインなどサイクルツーリズムの取り組みにより「地域の新たな観光需要の喚起、滞在時間拡大など経済効果も期待できる」と報告しています。
サイクルトレインもこうしたサイクルツーリズムの一環であり、沿線地域に観光消費をもたらす起爆剤となり得ます。
参照:国土交通省「サイクルトレイン・サイクルバス導入の手引き~国内外の参考事例集~令和4年度版」
環境負荷を軽減できる
サイクルトレインは環境面でもメリットがあります。自転車と鉄道を組み合わせることでマイカー利用を抑制でき、結果として二酸化炭素(CO₂)排出削減につながります。
実際、サイクリングに出かける際に目的地まで自動車で移動するケースは少なくありませんが、サイクルトレインを使えばそうした自動車利用を減らすことが可能です。
福井県で実施されたサイクルトレイン利用者への調査では、自家用車から「公共交通+自転車」への転換によって1人あたり約30%のCO₂排出削減が確認されています。
これは年間に換算すると一人当たり約340kgものCO₂削減に相当し、環境負荷低減に大きく寄与する数字です。
また、自転車利用の推進は大気汚染や渋滞の緩和にもつながるほか、利用者自身の健康増進効果も期待できます。サイクルトレインはこうした環境にも人にも優しい移動スタイルを広める役割を果たしているのです。
参照:福井県「サイクルトレイン利用に関するアンケート調査の結果」
サイクルトレインを利用する人にとってのメリット

サイクルトレインを利用する人にとってのメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 移動範囲が広がる
- 体力・時間の負担を軽減できる
- コストを抑えて旅行できる
順番に詳しく解説します。
移動範囲が広がる
サイクルトレイン最大の魅力は、電車と自転車を組み合わせることで行動範囲が一気に広がることです。遠方のサイクリングスポットや複数地域をまたぐ旅が可能になり、従来の「自宅発・自宅戻り」のルートに縛られず、自由な旅程を組めます。
体力・時間の負担を軽減できる
長距離を最初から最後まで自転車で走るのは体力的にハードですが、サイクルトレインを使えば、自分が走りたい区間に絞って効率よく走れます。体力や時間の余裕を生み出せるため、観光や食事を含めた旅全体をより満喫できます。
コストを抑えて旅行できる
サイクルトレインは、自家用車で移動する際の高速代や駐車料金、ガソリン代がかかりません。長距離移動の場合、鉄道+自転車の組み合わせにすることで移動費を抑えられ、現地での宿泊や食事、観光にお金を回せます。
サイクルトレインの導入事例

サイクルトレインの導入事例を3つ紹介します。導入を検討している自治体の方はぜひヒントにしてみてください。
上毛電鉄(群馬県)
群馬県のローカル私鉄・上毛電鉄は、2003年4月から通常の乗車券だけで自転車をそのまま車内に持ち込めるサービスを開始しました。平日朝ラッシュ時を除き終日利用可能で、持ち込み料金は無料という太っ腹な取り組みです。
このサービスは地元に定着し、現在では年間約4万台以上もの自転車が列車に持ち込まれています。マイカー保有率が高い群馬県において、ローカル線でこれだけの利用があるのは注目すべき成果です。
上毛電鉄沿線では駅での無料レンタサイクルも提供されており、鉄道+自転車で観光地めぐりがしやすい環境が整っています。サイクルトレインが地域住民の日常の足としても、観光サイクリングの手段としても根付いた好事例といえるでしょう。
西日本鉄道・天神大牟田線(福岡県)
福岡県の西日本鉄道 天神大牟田線は、2021年10月にサイクルトレインの実証実験を行い、利用者の反応が良好だったため、2022年3月より特急列車を対象に本格サービスを開始しました。
土日祝日の特急に予約制で自転車持ち込みを可能とし、開始から約1年で延べ1,500台超の利用実績があります。2023年には国土交通省の自転車活用推進本部より表彰も受けています。
当初は週末限定のサービスでしたが、ニーズに応える形で2024年10月からは平日にも拡大され、対象駅も増加。
沿線には太宰府や柳川などの観光地が点在し、「自転車をそのまま乗せて行って現地で巡る」というスタイルが新たな観光の形として定着しつつあります。
JR只見線(福島県~新潟県)
福島県会津地方と新潟県を結ぶJR只見線でも、サイクルトレイン導入に向けた動きが進んでいます。只見線はブナ林と渓谷美で知られる奥会津の秘境路線ですが、近年その魅力をサイクリングでも楽しんでもらおうと試みが始まりました。
2023年秋に試験的な運用を行った結果、運行上の問題がなかったことから、翌2024年5月に本格導入を見据えた社会実験が実施されました。
利用者からは「列車で自転車を持って行けるので移動の幅が広がる」といった声も聞かれ、今後の正式導入に期待が高まっています。
まとめ|サイクルトレインの現状について解説しました
サイクルトレインは、日本各地で着実に広がりを見せるとともに、観光振興や地域経済の活性化、環境負荷軽減といった多方面のメリットをもたらす取り組みです。
自治体にとっても、鉄道事業者と連携することで地域の新たな観光資源を創出し、持続可能な観光まちづくりに寄与できる有望な手段といえるでしょう。本記事で紹介したように、各地でサイクルトレイン導入後に多くのサイクリストが訪れ、地域に活気を生み出しています。
観光客にも地域にも優しいサイクルトレインを活用し、ぜひ魅力あるエコツーリズムの推進と地域活性化につなげていきましょう。