サイクルツーリズムのリアルな課題と現場の一歩

サイクルツーリズムは、「やる価値はある」「手応えも少しずつ出てきている」と感じられる一方で、思ったほど地域にお金が落ちない事業として続けるのが難しいといった悩みを抱えている現場も少なくありません。口で言うのは簡単だけど理屈どおりにいかない……頭を抱えている担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事ではきれいごとを言わずに、現場が直面する課題にスポットを当てます。予算や人員が限られる中でどうやったら地域を巻き込み、持続可能な仕組みを作れそうか、現場目線でのはじめのいっぽを探っていきます。サイクルツーリズムに関わる現場で実際によく聞かれる課題を整理し、うまくいっている地域が「何をやっているのか」「何をやらないようにしているのか」を観察してみました。インバウンド対応や地域連携、継続性のつくり方など、分かっているけどついつい後回しになりがちなポイントが浮かび上がってきたので、一緒に見てくれると嬉しいです。

目次

サイクルツーリズムの現場で起きている課題


地域連携、現実はなかなか進まない

「サイクルツーリズムは地域全体で取り組むことが重要」などと言われますが、実際には 担当部署やキーマンに負荷が集中してしまうケースは少なくありません。 観光協会、宿泊施設、飲食店、交通事業者がそれぞれ善意では動いている一方で、情報が共有されていない状態だと、サイクリストには点でしか体験がつながりません。 それなりに予算をかけてイベントやモデル事業としては成功したものの、翌年につながらず終わってしまうケースも多くあります。。

サイクルツーリズムで起きがちな問題

  • サイクリスト向け情報が点在していて、探しにくい
  • 一部の施設だけが恩恵を受け、広がりが生まれない
  • 負担が担当部署やキーマンに過集中する
  • 走るだけで終わりになってしまい、地域のストーリーが伝わらない
  • 成果が数値で見えず説明できない
  • 改善点が感覚論のまま共有されない

点から面の地域連携を阻む温度差

サイクルツーリズムを成功させるには、観光協会、宿泊施設、飲食店、そして地元住民の協力が欠かせません。しかし現場では、「自転車乗りのためだけに、なぜそこまでしなければいけないの?」という地域内の温度差が最初のハードルになります。

現場のリアルな悩み

情報のバラバラ感
サイクリストが本当に欲しい「自転車を安全に置けるか」「駐輪場がない場合はどうしたらいいのか」といった情報が、お店の紹介ページや地図に載っていない。
特定の店だけの負担
自転車ウェルカムな一部の店舗や宿だけにサイクリストが集中し、地域全体に経済効果が広がらない。
マンネリ化と人手不足
毎年同じコース、同じ内容でリピーターが減る一方、運営スタッフの負担ばかりが増していく
日常の走りやすさの欠如
イベントの日は警察の協力で安全に走れても、普段の日は交通量が多くてサイクリストが怖くて走れない

まずは小さく、顔の見える関係から

協議会より気軽な勉強会
最初から立派な組織を作る必要はありません。まずは地元のカフェや宿の店主を集めて、「サイクリストって実はこういうことで困っているらしい」を共有する小さな集まりから始めましょう。

サイクリスト目線のマップ作り
既存の観光パンフレットに自転車マークをつけたら、「ここにはバイクラックがある」「ここは空気入れを借りられる」といった、サイクリストが本当に安心できる情報をまとめることからスタートします。


小さな集まりが育ったら地域全体に
協議会の設立  観光協会、宿、飲食店、地元企業を巻き込んだ意見交換の場をつくる
共同プロモーションとツアー企画 うちの店でお昼、あっちの宿で宿泊など、地域資源を組み合わせた共同ツアープランを企画
情報プラットフォームの構築 地域全体の観光情報を一箇所に集約し、サイクリストへ発信


観光畑にいると、派手な新企画を次々やりたい気持ちがどうしても沸いて出てしまうのですが、前年より少し良くなったと言える積み重ねの方が、結果的に長続きします。同じ企画の焼き直しになることを恐れて刷新したい気持ちになりますが、1本でもいいので地域として推したいモデルコースを明確にすると、軸がしっかりします。

やることやらないこと
小さな関係者での定期的な情報共有
参加者アンケートを次の改善に反映
新規向けとリピーター向けを分けて考える
SNSやWebでイベント後も情報を出し続ける
既存の観光情報を自転車目線に編集し直す
無理に大きな組織にしようする
担当部署やキーマンに負荷が集中する
毎年ゼロから企画を作り直す
情報発信がフェードアウトする
車用・徒歩用の観光情報をそのまま使う

日常のファンを育てる

何もない日に来てもらう仕掛け
派手なイベントではなく、季節ごとの美味しいものや絶景をSNSでマメに発信し、「今週末、あそこへ走りに行こう」と思わせる仕組みづくり
地域住民とのすれ違いをなくす
サイクリスト向けのマナー啓発と同時に、地元住民の方にも「サイクリストが来ると地域が少し活気立つね」と感じてもらえるよう、地元を巻き込んだ小さなマルシェなどをルート上に配置する。

持続可能な観光として定着させるためのチェックポイント
地域住民との交流イベント サイクリストと地元住民が触れ合う機会を作り、地域全体で温かく迎える空気感を育てる
定期的な顧客満足度調査 走りに来てくれた人の声をあつめ、コースやサービスの改善点を見つける

インバウンド対応でつまずきやすいポイント

インバウンド誘致を考えるとき、多言語化すれば何とかなると考えがちですが、実際にはそれだけでは不十分です。例えば、日本の交通ルールやマナー(左側通行、ゴミの持ち帰りなど)を知らない外国人サイクリストもいます。サイクリスト本人に悪気はなくても歩道をスピードを出して走ったり、お店の前に自転車を乱雑に置かれたりして、地域住民から苦情が出てしまい、累積するともう受け入れたくないと現場側がシャットダウンしてしまいます。文化や習慣の違いを前提にした設計をすると、トラブルが減り、双方の心理的安全性も高まるはずです。

現場のリアルな悩み

  • 外国語のコース情報が断片的
  • 日本独特の交通ルールが伝わらない 
  • トラブル時の連絡先が分からない
やることやらないこと
走行ルールや注意点は文章より図解を重視する
緊急時の対応フローを明確に示す
やってはいけないことを事前に伝える
翻訳だけで対応したつもりになる
制度・ルールの説明を後回しにする

はじめのいっぽ

レンタサイクルを貸し出す際や、地域のサイクルポートに、多言語で日本の自転車ルールをまとめた分かりやすいイラスト入りのカードを配布、掲示してみましょう。
予算や体制が整ってきたら、以下の多言語化を進めていきましょう。

ウェブサイト・SNSの多言語化 
コース情報、交通ルール、注意事項を主要言語で発信する。
多言語パンフレット・案内表示
観光案内所で配るマップや、コース上の看板を多言語化し、迷わず安心して走れる環境を作る。
翻訳アプリの活用
現場には翻訳アプリやパネルを使って指さししたり、笑顔で対応すれば大丈夫という安心感を地域で共有することが大事です。
ピクトグラムの活用
自転車進入禁止・右折などは、文字よりも視覚情報、ピクトグラムの方が世界共通で伝わります。

地域資源の再発見に特別なものは要らない

 他地域と差別化を考えるとき、サイクリストを「走る人」という要素だけで捉え、自転車要素を強めようとして距離や獲得標高だけに注目してしまうことがありますが、サイクルツーリズムの価値は走った先で何に出会えるかにあります。「ウチの地域には、しまなみ海道のような素晴らしい海も、富士山のような山もない」と嘆く必要は全くありません。サイクリストにとってのごちそうは、有名店の食べ物ではなく、地元のおばちゃんがやっている小さなお惣菜屋のコロッケや、自販機すらない静かな山道の先にある、ぽつんと佇む神社だったりします。自分たちが当たり前と思っている日常の風景は、立派な観光資源になります。

「なぜこの道を走るの?」「ここで何を体験してほしい? 」「 どんな記憶を持ち帰ってほしい? 」

多角的に見ることで、自然・歴史・食・人といった地域資源が活きます。 コースの外にも、地域らしさがたくさん隠れているはずです。
サイクリストは移動距離が長く、立ち寄り先が限定されやすい特性があるため、来てもらうから滞在してもらうへの視点転換が鍵になります。

やることやらないこと
立ち寄りやすい場所の設計
消費につながる導線づくり
サイクリスト向け特典を地域で共通化する
宿泊と体験をセットにしたプランを用意する
ガイドや体験型コンテンツで付加価値をつける
通過型で終わる設計
消費導線を考えないまま集客する

地域が「やってよかった!」と思える環境をつくる

サイクルツーリズムの本当の成功は、地域の経済が潤い、そこに住む人がやってよかったと思えることです。多くの人が少しずつ参加することで、サービスやコンテンツが充実します。また、住民が自転車に関心を持つことで、自らも自転車を利用するきっかけが生まれます。利用者が増えれば走行環境の整備が進み、さらなる利用者の増加を招く好循環が期待できます。

はじめのいっぽ

サイクルオアシスの設置
お店の前にバイクラックを置き、ボトルへの給水やトイレの貸し出しを快く引き受ける。サイクリストはお礼に「ここでパンを買おう」「お土産を買おう」という気持ちになります。小さな消費を積み重ねることが、持続可能な地域経済への第一歩です。

最初の一歩は整理するところから

サイクルツーリズムの課題は、一朝一夕で解決できるものばかりではありません。道路の整備や大規模な予算投入には時間がかかります。それでも、安全対策の強化、地域連携、多言語対応、経済効果の創出といった大きな課題も、すべては現場の小さな一歩から始まります。

バイクラックを1台置いてみる、笑顔で『こんにちは』と声をかけてみる、サイクリストが喜ぶ地元の隠れスポットを教えてあげる。
現場の一人ひとりのささやかな工夫と寄り添う心が、サイクリストにとっての何度でも再訪したい大好きな地域を作っていきます。

ひとりで抱え込まず、まずは頭の整理から始めてみませんか?

とはいえ、サイクルツーリズムに取り組む中で、 「何が課題なのかは分かっているつもりだけれど、うまく言葉にできない」 「やるべきことが多すぎて、どこから手をつけたらいいか優先順位がつけられない」 と、ひとりで悩みを抱え込んでいる担当者の方も多いのではないでしょうか。多くの地域で起きているのは、決してノウハウや熱意の不足ではありません。状況が整理されないまま、個別の施策やイベントだけが積み重なってしまい、現場が疲弊している状態です。

私たちHaNeRiは、サイクルツーリズムに取り組む自治体や事業者の方々に寄り添い、今、どこに立っているのかを一緒に整理するところから伴走しています。
実際の支援の現場でも、企画書を作ったりツールを導入する前に、関係者の認識をそろえる時間が最も大切だと感じています。

すぐに具体的な施策を決める必要はありません。一度、頭の中をスッキリ整理したいという段階で構いません。この記事が、ご自身の取り組みを振り返るきっかけになり、その整理を一緒に進めるパートナーとしてHaNeRiを思い出していただけたら、これほどうれしいことはありません。

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